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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
かれらの顔はこころよい酔のために赤らみ、その眼には遠い思い出を追うような、静かな昂奮の色があらわれていた。庄野が頷き、渡貫が頷き、又左衛門は穏やかに微笑した。
「鵜沢小助、――」と梶本は続けた、「帯刀といったか、彼と死んだ栗木与八の二人は中でも野心満々だった、世間のおとなどもがみんなくだらない無能な人間のようにみえ、政治からなにからすべて気にくわなかった、そうだ、いま思いだしたが、栗木与八は藩政の腐敗を怒って、重臣たちを誅殺するなどと云いだしたこともあった」
「たしかそのために」と渡貫が云った、「二十日だか三十日だか、謹慎を命ぜられたように思うがな」
「私は江戸で聞いたな」と庄野がたのしそうに云った、「栗木のほかに四人か五人、謹慎を命ぜられたのだろう、江戸でもなにごとが始まったのかと、若い者たちはだいぶざわざわしたものだ」
「あれも血が余っていたからだ、理由は二の次で、とにかくなにか思いきったことをせずにはいられなかったんだね」と梶本が云った、「――そういうふうに、迷ったり躓いたり、失敗を繰り返したりしながら、ふしぎなくらいみんな順当に成長した、初めの目的どおりとはいかないまでも、殆んど目的を達したと云っていいだろう」