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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
ことを相手に知らせないというおもいやりが佐藤にはあった、これは口で云うほどたやすいことじゃない、河野、渡貫、沢橋、――私が知っているだけでも、この私を入れて四人が危ないところを、そのおもいやりで助けられたからな」
「ばかなことを云っては困る」
「もうお互いに年だ、こんなことを云うのもこれが最後かもしれない、終りの日の来るまえに、云いたいことは云ったほうがいいと思う、佐藤にしても、いまさらそれでてれることはないだろう」
「いや、てれるというわけではない」又左衛門は火桶の鉄瓶から、湯を湯ざましへ移し、急須と湯ざましとで湯をこなしながら、まるで色褪せた情事を悔みでもするように云った、「――人に云われるまでもない、自分で考えるだけでも冷汗が出るんだ、自分のいやらしさ、わる賢さ、凡俗さというものが思いだされるのでね」
「なにをそう誇張するんだ」
「誇張どころか、もっとはっきり云えば、おれは鼻持ちのならない賤民だったよ」
又左衛門はこなした湯を急須に注いで、その急須をゆっくり三度廻してから盆の上におき、茶筒から茶を出して入れ、そっと蓋をした。このあいだに梶本が云った。