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ばくやくのはなかご

爆薬の花籠

海野 十三

「少女倶楽部」1940(昭和15)年6月~1941(昭和16)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 101,908 字 · 204 页

青空文庫

駅前にはバスがあるのに、黒川はそれに乗ろうとせず、てくてくと歩きだした。たとえ一円でも、これから先にはっきりしたあてのない今のミマツ曲馬団のふところには、ひどくひびくのであった。この団長さん、なかなかこまかい人物だった。

二人は、にぎやかな商店街をぬけて、なんだか、せせこましい長屋町に入りこんだ。そこは鼠色の土ほこりの立つ、妙にすえくさいさびた鉄粉のにおう場所で、まだ、ところどころに、まっ黒な水のよどんだ沼地があった。

だが、房枝には、こういう建てこんだ棟割長屋が、ことの外なつかしかった。それは房枝が、まだ見ぬ両親の家を思い出したからだ。

(こうした棟割長屋のどこかに、自分の両親が暮しているのではないか)

そう思えば、房枝には、一軒一軒の家が、ただなつかしくて仕方がないのだ。家々には、大勢の家族がにぎやかに暮している。なにやら、うまそうに煮えている匂もする。赤ちゃんが泣いている。よぼよぼしたお婆さんが、杖をつきながら露地の奥からあらわれて、まぶしそうに、通をながめる。飴屋さんが、太鼓を鳴らしながら子供たちをお供にして通る。

どれを見ても、一つとして、房枝にはなつかしくないものはなかった。