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はちゅうかんじけん

爬虫館事件

海野 十三

「新青年」1932(昭和7)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页

青空文庫

それからは時計のセコンドの響きばかりがあった。午後五時、六時、七時、それから八時がうっても九時がうっても、帆村の姿は爬虫館へ帰ってこなかった。九時半を過ぎると多勢の畜養員や園丁が檻を担いで入って来て無造作にニシキヘビを一頭入れては別の暖室の方へ搬んで行った。仕事は間もなく終った。助手の須永は、先ほどから勝誇ったように元気になってくる鴨田理学士の身体を、片隅から睨みつけていた。やがて爬虫館の柱時計がボーン、ボーンと、あたりの壁を揺すぶるように午後十時を打ちはじめた。人々は、首をあげてじっと時計の文字盤を眺め、さて入口をふりかえったが、どうやら求める跫音は蟻の走る音ほども聞えなかった。

「帆村さんはもう帰って来ないかも知れませんよ」

鴨田理学士が両手を揉み揉み云った。

「いつまで待って居たって仕様がありませんから、この儘閉めて帰ろうではありませんか」

警官と西郷副園長とが、腰を伸して立ち上った。須永も立ち上った。しかし彼は鴨田の解散説に賛成して立ったわけではなかった。

「もう少し待って下さい。先生は必ず帰って来られます」

須永は叫んだ。

「いや、帰りません」