轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ちち

父

矢田 津世子

「日暦」1935(昭和10)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,168 字 · 38 页

青空文庫

狭い階段を中途まで登っていた紀久子が「大丈夫かい」といって駈け降りると、膝をすりむいたらしい福は向うむきになって唾をつけていたが、紀久子の声に急に顔へ袂をあてて泣きはじめた。

「まあ、福は泣いたりして」と紀久子もしゃがんで起しにかかると、

「何んですか、亡くなった奥様のことが思い出されまして……」と福は肩をすぼめて一そう激しく泣いた。その潤んだ声がふいに胸にこたえた。母の落ち窪んだ眼頭に溜った涙の玉が初めて哀しく思い出されてきた。どうして、今まで自分は泣けなかったろう。それを不思議に思いながら、今は理窟なしに、ただ母を思うて泣けるのだった。

父の誕生日の当日になった。十数人の親戚の人たちが招ばれた。紋付の羽織袴の父と、これも裾模様をあでやかに着飾ったおきえさんが正座に並んで坐った。兄が新らしい母として簡単におきえさんを紹介した。紀久子は、これはへんだ、と思った。隣りに坐っている姉を突ついてそっと訊くと、

「どうもねえ、お父様はおきえさんの籍をいれたいらしいのよ」

と、姉も浮かない顔である。

酒がまわってだんだん座が乱れてきた。銚子を持ったおきえさんが慣れた手つきでひとりひとりを注いでまわった。