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ちちのてがみ
父の手紙
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,317 字 · 5 页
父の性質、そして母の性質のちがいや、そこから醸された全生涯の、睦しくてしかしなかなかむずかしかったいきさつの片鱗が、こんなことにも本質的なものを閃かせているのである。
私が大きくなってからの父は、随分あちこちに出張の旅行をしたが、筆まめとはいえなくて、母あての手紙も大抵は箇条がきのように用件をかいたのが多くなった。それでもそのあとさきには、よく眠れますかとか、よく眠るようにとか、とかく健康の勝れなかった母への心くばりが添えられてあった。
二十一ぐらいの時から、私は父たちの暮しと別になったのであったが、それから永別するまでの十数年間に貰った手紙の数は決して多くなかった。手紙をかくのは母の役のような工合で、それらの手紙は余り流達雄弁であるため、様々の思いをもって生きている娘の心は、却っていちいち手紙なんか書かないでいる父、手紙なんかを書かないで娘の生活の推移を包括している父の方を近く思うところもあった。
昭和三年の八月一日に、二番目の弟が自分から二十一歳で生命を絶った。そのとき私はモスクワにいた。モスクワからレーニングラードへ行って、郊外の「子供の村」