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ちちのてがみ
父の手紙
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,317 字 · 5 页
それから後、私のことについて、しばしば父が経験した心痛や悲喜について書かれた手紙というものは一通もない。
父がそれほどとも思われなかった病いで、急に亡くなる前後、私はその側にいることの出来ない事情におかれていた。今から五年前のことで、東京が稀有な大雪に覆われた年の出来ごとである。父がその病床についてから会えない娘の私にあてて書いたのは、一つの英語の詩であった。そこには、娘が年を重ね生活の経験を深めるにつれて、いよいよ思いやりをふかめずにいられなくなるような、若々しくしかも老年の思慮にみちた父のある情感、感懐が花や森や猟人に象徴して語られているのである。
〔一九四一年四月〕