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うし
牛
「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页
闇夜の山道を独り歩きしてキャラメルを届けてくれたほどだから、自分に好意をいだいているのだろう。あの女と結婚してもいいような考えが、またそれに伴なういろいろの想像が彼をたのしませた。
女の指の冷めたさが何より身にしみて切実であった。その回想は彼に最も快い気分を与えた。それが女のマゴコロのようにシミジミ思われたからである。
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五人の学生がつかまったので、彼は家に帰ることを許された。彼の気分からいっても、ちょうど出てもよいころであった。
そろそろ新学期も近づいたし、ランニングの猛練習もはじめなければならない。自然に節食したので適当に痩せたかも知れないから、今年こそ八百で念願の二分をきることができるかも知れない。この考えは彼の神殿暮しにいつも希望の光であった。
この県のNo1は小学校の教員であった。タイムは彼と同じである。彼はきまったように胸の厚さだけ負けるのだ。そして、そこまで迫まりながら、胸の厚さをどうしてもちぢめることができなかった。彼がキチガイじみたラストスパートの練習にうちこんでいるのは、その胸の厚さを抜くためだ。
彼はこのNo1に単に好敵手というだけではない敵愾心をいだいていた。