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ぎゅうにゅうとうま
牛乳と馬
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页
を読んでいると、お姉さまが低い声でお言いなさった。
「ちょっと。」
台詞をとばした筈ではなかったがと、お姉さまの方を見ると、お姉さまは、宙に眼を据えて、何かじっと聴き入っておいでになる。いつまでもそのままだ。お母さままで、何か耳を澄していらっしゃるらしい。
お姉さまはふいに咳をなさった。
「馬の駆けるような音がしたんだけれど……。」囁くようなお声だ。
お母さまは編物の手を休めて、まだ耳を傾けていらっしゃる。
虫の声がするきりで、しいんとした夜だった。わたしもちょっと変な気がして、もう読むのをやめた。
そういうことが、時々起った。お姉さまの声はさまざまだった。
「ちょっと。」
「あ。」
「ほら。」
「ね。」
突然、眼を宙に据えて、戸外の気配に聴き入りなさる。お母さままで首をかしげて、じっと聴いていらっしゃる。わたしには何にも聞えないのだ。あとでお姉さまに伺うと、遠くの林の中を馬が駆けていたり、家のまわりを馬が歩いていたり、裏口に馬がふーっと鼻息を吐きかけたり、みんな馬のことばかりだった。
どうも少しおかしい。それに、お姉さまは、頬の赤みは増したようだし、深々とした黒目の色がいっそう深くなったようだし、前よりも鼻筋が通って皮膚が薄くなったようだし、お美しさに病的な感じが濃くなっていた。