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ぎゅうにゅうとうま

牛乳と馬

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页

青空文庫

あとでは、お姉さまの病室の方も開け放しになっていて、お姉さまは広縁の方に出て、脇息にもたれて褥に座っていらした。小野田さんとも話をなさったに違いない。もう黙って、小野田さんの方を見つめていらっしゃるのだが、その眼が、錐のように鋭く、突き刺すようで、しかも視線は遠くに届かないような、妙な印象をわたしに与えた。

小野田さんは庭の方を眺めながら、ウイスキーを飲んでいた。酒好きだとみえる。もう眼の縁を赤らめ、その眼尻で笑ったり、眉をぴくりとしかめたりした。

この高原に霧が多い話から、各地の霧の話も出た。戦地で、濃霧の中を進軍していると、ぱったり敵兵と顔をつき合せ、あまり近すぎるし突然のことなので、斬り合いをすることも忘れて、双方ともじりじり後に退った、そういうこともあったとか。そのような時、咄嗟に敵を刺したり捕えたりすることが出来たら、もう一人前の兵隊だそうである。

いったい、小野田さんの話は、真偽不明で、ひとをはぐらかすようなところがあって、なんだか煙幕でも張ってある感じだ。

霧のことについで、雷の話も出た。剣つきの銃をにない、三十人ばかりひとかたまりになって行進していると、その銃剣の穂に大きな雷が落ちて、全員圧死してしまったこともあるとか。