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とっこうたいにささぐ

特攻隊に捧ぐ

坂口 安吾

「坂口安吾全集 16」筑摩書房、2000(平成12)年4月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,146 字 · 7 页

青空文庫

私は然しいささか美に惑溺しているのである。そして根柢的な過失を犯している。私はそれに気付いているのだ。戦争が奇蹟を行ったという表現は憎むべき偽懣の言葉で、奇蹟の正体は、国のためにいのちを捨てることを「強要した」というところにある。奇蹟でもなんでもない。無理強いに強要されたのだ。これは戦争の性格だ。その性格に自由はない。かりに作戦の許す最大限の自由を許したにしても、戦争に真実の自由はなく、所詮兵隊は人間ではなく人形なのだ。

人間が戦争を呪うのは当然だ。呪わぬ者は人間ではない。否応なく、いのちを強要される。私は無償の行為と云ったが、それが至高の人の姿であるにしても多くの人はむしろ平凡を愛しており、小さな家庭の小さな平和を愛しているのだ。かかる人々を強要して体当りをさせる。暴力の極であり、私とて、最大の怒りをもってこれを呪うものである。そして恐らく大部分の兵隊が戦争を呪ったにきまっている。

けれども私は「強要せられた」ことを一応忘れる考え方も必要だと思っている。なぜなら彼等は強要せられた、人間ではなく人形として否応なく強要せられた。だが、その次に始まったのは彼個人の凄絶な死との格闘、人間の苦悩で、強要によって起りはしたが、燃焼はそれ自体であり、強要と切り離して、それ自体として見ることも可能だという考えである