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とくしゅぶらくのはんざい

特殊部落の犯罪

豊島 与志雄

「新小説」1922(大正11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,455 字 · 15 页

青空文庫

表の戸からぬけ出した。

先刻の藁ぼっちへ見当をつけて置いて、遠廻りに忍び寄って行った。身を隠す影がない所は、田の畦の横を犬のように四つ匐いになった。霜柱がざくりざくりと砕けた。

東の空に昇った円い月の光りが、一面に漲り落ちていた。その光りを受けてる方面へ、彼は藁ぼっちに匐い寄った。息をつめて耳を澄すと、囁き声と忍び笑いの声とが、先夜の通りだった。彼は眼を輝かしながら、口をあんぐり開いて、そっと覗いてみた。一つになって屈み込んでる男女の姿がちらと見えた。瞬間に「あれえ」けたたましい女の声がした。

彼は喫驚してつっ立った。すぐ眼の前に、つると平吉とが月の光りを正面に浴びて立っていた。彼は驚きと恐れと怒りとで心が顛倒した。

「己、逃さねえぞ!」

叫んだのが声に出たかどうか、自分では知らなかった。いきなりつるに飛びかかって、左脇にその首根をはさみつけ、右手で身を防ぐ構えをした。が平吉は一散に逃げ出した。彼はその後から投げつけてやるために、身を屈めて石塊か土塊かを探したが、あたりに見当らなかった。その身を屈める拍子に、小脇のつるが声を立てずにびくりびくりと全身で震えるのを、なおぎゅっと腕に力を籠めた。