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ぎせいしゃ
犠牲者
平林 初之輔
「新青年」博文館、1926(大正15)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,364 字 · 37 页
その上、何となく不吉な予感が、彼の心を執拗に蝕ばむのである。まるで、これまで運命の神にめぐまれていると信じきっていた人間が、突然、最も露骨な、醜悪極まるやりかたで、不信任の刻印をおされた時のような不面目な気持ちがするのである。安心と満足との山頂から、不安と恐怖とのどん底へ突き落されたような気持ちがするのである。
彼は世界が急にまっ暗になり、今まで光り輝いていた自分の未来が見る見るその闇の中へ吸いこまれてゆくように思った。
四、拘引
妙な出来事のために不愉快な心を抱いて、今村が自宅の門口にさしかかって来たときである。不意に、まるで雪の中から湧いて出たように、三四人の黒い人影が、ばらばらと彼の面前に現われて、粗暴とも不礼ともいいようのないやりかたで、両方から彼の腕を鷲掴みにした。
自信をもっていた人間が、一たん自信を裏切られると、それから先はひどく臆病になってしまって、何事にも自信がもてなくなる。一種の強迫観念にとらわれてしまって、することなすことが、悉くへまの連発になる。勝負事に一度敗け出すととめどなく敗けつづけるような工合である。
今村は、不意に闇の中からあらわれた暴漢の、無法極まる仕打ちに対して、抗議することも何も忘れてしまった。