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いぬのはじまり

犬のはじまり

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,886 字 · 8 页

青空文庫

今に大きくなり、性質も悠暢として居そうなのは、わるく怯えないのでもわかる。

私は

「置いてね、置いて頂戴ね」

とせびり出した。

「裏の方で遊ばせましょうよ。ね、首輪がついて居ないから正式に何処の飼犬でもなかったのよ。ね、丁度みかん箱も一つあるから。」

良人は、

「どれ」

と仔犬を抱きあげ、北向の三坪ばかりの空地につれて行った。私も後をついて出た。

地面におろすと、仔犬は珍しいところに出たので、熱心に彼方此方を駆け廻った。

小さいつつじの蔭をぬけたり、つわぶきの枯れ葉にじゃれついたり、活溌な男の子のように、白い体をくるくる敏捷にころがして春先の庭を駆け廻る。

私は、久しぶりで、三つ四つの幼児を見るように楽しい、暖い、微笑ましい心持になって来た。子供の居ない家に欠けて居た旺盛な活動慾、清らかな悪戯、叱り乍ら笑わずに居られない無邪気な愛嬌が、いきなり拾われて来た一匹の仔犬によって、四辺一杯にふりまかれたのだ。

私は少しぬかる泥もいとわず、彼方にかけ、此方に走りして仔犬を遊ばせた。馴れて裾にじゃれつき、足にとびかかる。太く短い足の形の可愛さ。ぶつかって来る弾力のある重い体。