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はんにん
犯人
「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页
「あなたは今朝のバスの中で、花井訓導がサヨの情夫だったということを連れの方に語ってきかせていましたね」
男は怪訝な顔をして目をそらして、相手になろうともしなかった。人見がせきこんで説明しようとするのを、毛里がひきとって、噛んでふくめるように説明したが、男は首をふって否定するばかりであった。最後に腹を立てて云った。
「第一オレは花井もサヨも知らないよ。オレがバスの中でそんなことを云った覚えがないということは、連れの男にきけば分らア。酒場にひッかかっていなきゃア、おッつけ来るころだ」
幸いにも、連れの男は酒場にひッかかったらしく、バスの出発までには現れなかった。なぜ幸いかというと、人見は薄々それが自分のソラ耳であったらしいことを自覚しはじめていたからである。
今朝のバスの中での彼と彼らとの距離はかなりあった。田舎の人は高声で話をしがちではあるが、二人の会話はただそれ一ツが聞きとれただけで、他に一言も聞きとれなかったということは奇妙である。バスにのってしばらくのうちというものは、乗客の会話がみんな彼の噂のように聞えてきて、彼は不安と羞恥に悩みきっていたほどだから、それがソラ耳かも知れないことは彼自身も納得できないことではなかった。