轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

きょうげんのかみ

狂言の神

太宰 治

「東陽」1936(昭和11)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页

青空文庫

眼をあいたときには、まったく意志を失い、幽霊のように歩いて、磯へ出た。真くろい雲が充満し、空は暗くて低かった。見渡すかぎり、人の影がなかった。腐りかけた漁船がひとつ、砂浜に投げ捨てられ、ひっくりかえって、まっくろい腹を見せてあるほかには、犬ころ一匹いなかった。私は、ズボンのポケットに両手をつっこみ、同じ地点をいつまでもうろうろ歩きまわり、眼のまえの海の形容詞を油汗ながして捜査していた。ああ、作家をよしたい。もがきあがいて捜しあてた言葉は、「江の島の海は、殺風景であった」私はぐるっと海へ背をむけた。ここの海は浅く、飛びこんだところで、膝小僧をぬらすくらいのものであろう。私は、しくじりたくなかった。よしんばしくじっても、そのあと、そ知らぬふりのできるような賢明の方法を択ばなければ。未遂で人に見とがめられ、縄目の恥辱を受けたくなかった。それからどれほど歩いたのか。百種にあまる色さまざまの計画が両国の花火のようにぱっとひらいては消え、ひらいては消え、これときまらぬままに、ふらふら鎌倉行の電車に乗った。今夜、死ぬのだ。それまでの数時間を、私は幸福に使いたかった。