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きょうげんのかみ
狂言の神
「東陽」1936(昭和11)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页
お金の有る夜は、いくらでも、いくらでも、その女のひとにだまされて、お金を無くする。そうして、女のひとにだまされるということは、よろこばしいものだとつくづく思った。女は、大学生から貰ったお金は一銭もわが身につけず、ほうばいの五人の女中にわけてやり、ばたばたと脛の蚊を団扇で追いはらって浅草まつりが近づいたころには、その食堂のかんばん娘になっていた。神のせいではない。人の力がヴィナスを創った。女の子は、せわしくなるにつれて恩人の大学生からしだいに離れ、はなれた、とたんに大学生の姿も見えずなった。大学生には困難の年月がはじまりかけていたのである。
その夜、歌舞伎座から、遁走して、まる一年ぶりのひさごやでお酒を呑みビールを呑みお酒を呑み、またビールを呑み、二十個ほどの五十銭銀貨を湯水の如くに消費した。三年まえに、ここではっきりと約束しました。ぼくは、出世をいたしました。よい子だから、けさの新聞を持っておいで。ほら、ね。ぼくの写真が出ています。これはね、ぼくの小説本の広告ですよ。写真、べそかいてる? そうかなあ。微笑したところなんだがなあ。約束、わすれた? あ、ちょいと、ちょいと。