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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
それきり後がどうなったことやら分らなかったが、気が付いてみると、いつか自分は新国道のバスの停留所の前に来て、さっき床屋で受け取った釣銭の銀貨を、まだしっかりと手の中に握っていた。
ちょうどその日の午後一時頃、品子が朝のうちに仕上げた縫物を、近所まで届けて来ると云って、不断着の上に毛糸のショールを引っかけて、小走りに裏口から出て行ったあと、初子がひとり台所で働いていると、そこの障子をごそッと一尺ばかり開けて、せいせい息を切らしながら庄造が中を覗き込んだので、
「あらッ」
と、飛び上りそうにすると、ピョコンと一つお時儀をしながら笑ってみせて、
「初ちゃん、………」
と云ってから、後ろの方に気を配りつつ急にひそひそ声になって、
「………あの、今此処から品子出て行きましたやろ?」
と、セカセカした早口で云った。
「………僕今そこで会うてんけど、品子は気イ付けしまへなんだ。僕あのポプラーの蔭に隠れてましたよってにな。」
「何ぞ姉さんに用だっか?」
「滅相な! リリーに会いに来ましてんが。―――」
そして、そこから庄造の言葉は、さも思い余った、哀れっぽい切ない声に変った。
「なあ、初ちゃん、あの猫何処にいてます?………済んまへんけど、ほんのちょっとでええさかい、会わしとくなはれ!」