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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
ぜんたい店の商売などは母親に任して置いて、兎に角男一匹が何かしら職を求めたらよいのに、国道筋でカフェエを始めたいからと伯父に出資を申し込んで、意見されたことがあった外には、猫を可愛がることと、球を撞くことと、盆栽をいじくることと、安カフェエの女をからかいに行くことぐらいより、何の仕事も思い付かない。そうして今から足かけ四年前、二十六の歳に畳屋の塚本を仲人に立てて、山蘆屋の或る邸に奉公していた品子を嫁に貰ったのだが、その時分から商売の方がいよいよ上ったりになって、毎月の遣り繰りに骨が折れて来た。親の代から蘆屋に住んでいるお蔭で、長年の顔があるところから、暫くは無理が利いたけれども、坪十五銭の地代が二年近くも滞って、百二三十円にもなっているのは、どうにも返済の見込みが立たない。で、もう庄造をアテにしないことにきめた品子は、仕立物などを頼まれたりして暮らしの補いをつけていたばかりか、折角お給金を溜めて一通り拵えて来た荷物にさえ手をつけて、僅かの間に減らしてしまった。そんな訳だから、今更その嫁を追い出そうと云うのは無慈悲な話で、近所の同情が彼女の方へ集まったのも当然であるが、おりんにしてみれば、背に腹は換えられなかったし、子種のないと云うことが難癖をつけるのに都合が好かった。