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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
そしてこの迂濶な夫婦は、猫を渡してしまってから、始めて品子のほんとうの腹が分りかけて来たのである。
成る程、リリーを囮に己を呼び寄せようと云う気だったのか。あの家の近所をうろうろしたら、掴まえて口説き落そうとでも云うのか。―――庄造はそこへ気がついてみると、いよいよ品子の陰険さ加減が憎くなったが、そんな道具に使われるリリーの身の上に、一層可哀さが増して来た。唯一の望みは、尼ヶ崎から逃げて帰って来たように、阪急の六甲にある品子の家から逃げて来はせぬかと云うことであった。実は水害の後の仕事で忙しい塚本が、夜受け取りに来ると云ったのを、朝にして貰ったのも、明るい時に連れて行かれたら道を覚えているであろう、そうしたら逃げて来るのも容易であろうと、そんな心積りがあったからだが、それにつけても思い出されるのは、この前、尼ヶ崎から戻って来たあの朝のことだった。何でもあれは秋の半ば時分であったが、或る日、ようよう夜が明けたばかりの頃、眠っていた庄造は「ニャア」「ニャア」と云う耳馴れた啼き声に眼を覚ました。その時分は独身者の庄造が二階に寝、母親が階下に寝ていたが、朝が早いのでまだ雨戸が締まっているのに、つい近いところで「ニャア」