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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
蘆屋へ連れて来た当座は、まだほんとうに小さくて、掌の上へ乗る程であったが、そのお転婆でやんちゃなことは、とんと七つか八つの少女、―――いたずら盛りの、小学校一二年生ぐらいの女の児と云う感じだった。そして彼女は今よりもずっと身軽で、食事の時に食物を摘まんで頭の上へ翳してやると、三四尺の高さまで跳び上ったので、すわっていては直ぐ跳び着かれてしまうから、しばしば食事の最中に立ち上らねばならなかった。彼はその時分からあの曲芸を仕込んだのであるが、箸の先に摘まんだ物を、三尺、四尺、五尺、と云う風に、跳び着く毎にだんだん高くして行くと、しまいには着物の膝へ跳び着いて、胸から肩へすばしッこく這い上って、鼠が梁を渡るように、箸の先まで腕を渡って行ったりした。或る時などは店のカーテンに跳び着いて、天井の方までクルクルと這い上って、端から端へ渡って行って、又カーテンに掴まって降りて来る、―――そんな動作を水車のように繰り返した。それに、そう云う幼い時から非常に表情が鮮やかで、眼や、口元や、小鼻の運動や、息づかいなどで心持の変化をあらわすことは、人間と少しも違わなかった。