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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

そうしたところで最後には矢張負かされて、同じ結果を見たかも知れぬが、でもそれだけの反抗もせずにしまったのでは、リリーに対して如何にも義理が済まないのであった。

もしもリリーが、あの尼ヶ崎へ遣った時代にあれきり戻って来なかったとしたら?―――あの時だったら、彼も一旦同意を与えて他家へ譲ったのであるから、きれいにあきらめもしたであろう。だがあの朝、トタン屋根の上で啼いていたのをやっと掴まえて、頬ずりをしながら抱き締めた瞬間に、ああ、不憫なことをした、己は残酷な主人だった、もうどんなことがあっても誰にもやるものか、死ぬまで此処に置いてやるのだと、心に誓ったばかりでなく、リリーとも堅い約束をした気持だった。それを今度、又あんな風にして追い出してしまったかと思うと、非常に薄情な、むごいことをしたと云う感じが胸に迫って来るのであった。その上可哀そうなのは、この二三年めっきり歳を取り出して、体のこなしや、眼の表情や、毛の色つやなどに、老衰のさまがありありと見えていたのである。全く、それもその筈で、庄造が彼女をリヤカーへ乗せて此処へ連れて来た時は、彼自身がまだ二十歳の青年だったのに、もう来年は三十に手が届くのである。