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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

もしもそれより高くすると、もう跳ぶことをあきらめて、庄造の体を登って行くか、それだけの気力もない時は、ただ食べたそうに鼻をヒクヒクさせながら、あの特有な哀れっぽい眼で彼の顔を見上げるのである。「もし、どうか私を可哀そうだと思って下さい。実はお腹がたまらないほど減っているので、あの餌に跳び着きたいのですが、何を云うにもこの歳になって、とても昔のような真似は出来なくなりました。もし、お願いです、そんな罪なことをしないで、早くあれを投げて下さい。」―――と、主人の弱気な性質をすっかり呑み込んでいるかのように、眼に物を云わせて訴えるのだが、品子が悲しそうな眼つきをしてもそんなに胸を打たれないのに、どう云うものかリリーの眼つきには不思議な傷ましさを覚えるのであった。

仔猫の時にはあんなに快活に、愛くるしかった彼女の眼が、いつからそう云う悲しげな色を浮かべるようになったかと云うと、それがやっぱりあの初産の時からなのである。あの、押入の奥のサイダの函から首を出して術なさそうに見ていた時、―――あの時から彼女の眼差に哀愁の影が宿り始めて、そののち老衰が加わるほどだんだん濃くなって来たのである。