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ねことしょうぞうとふたりのおんな
猫と庄造と二人のおんな
谷崎 潤一郎
「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页
殊に最近の一二年、夫婦の不和と生計の困難とで始終家の中がゴタゴタしていた間、リリーもそれに捲き込まれて、どうしたらよいか身の置きどころがないように狼狽えていたことがあった。母親が今津の福子の家から迎いを寄越して、庄造に呼び出しをかけたりすると、品子より先にリリーが彼の裾へ縋って、あの悲しい眼で引き止めたりした。それでも振り切って出て行くと、犬のように後を追いかけて、一丁も二丁も附いて来た。だから庄造も、品子のことよりは彼女のことが心配になって、なるべく早く帰るようにしたのであったが、二日も三日も泊まって来た時などは、気のせいかも知れぬが、その眼の色に又一段と暗い影が添わっていた。
もうこの猫も余命幾何もないのではないか、―――と、この頃になって彼はしばしばそんな予感を覚えるにつけ、そう云う夢を見たことも一度や二度ではないのであった。その夢の中の庄造は、親兄弟に死に別れでもしたような悲嘆に沈み、涙で顔を濡らしているのだが、もしほんとうにリリーの死に遭うことがあったら、彼の嘆き方は夢の中のそれにも劣らないような気がするのである。で、そんな工合にそれからそれへと考え始めると、彼女をおめおめ譲ってしまったことが、又もう一度口惜しく、情なく、腹立たしくなって来るのであった。