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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

ましてこんなに年を取って、住み馴れた家を追われ、嫌いな人の所へなんか連れて来られて、どんなに遣る瀬ないであろう。もしほんとうにリリーを手なずけようと云うなら、その心持を察してやり、何よりも安心と信頼を持たせるように仕向けなければならない。悲しい感情で胸が一杯になっている時に、無理に御馳走をすすめたら、誰だって腹が立つではないか。だのに自分は、「食べるのが嫌なら小便をしろ」と、フンシ迄も突き付けた。あまりと云えば手前勝手な、心なしの遣り方だった。いや、そのくらいはまだいいとして、縛ったのが一番よくなかった。相手に信頼されたかったら、先ず此方から信頼してかからなければならないのに、あれではますます恐怖心を起させる。いくら猫でも、縛られていては食慾も出ないであろうし、小便も詰まってしまうであろう。

明くる日になると、品子は縛ることを止めにして、逃げられたら逃げられたで仕方がないと、度胸をきめた。そしてときどき、五分か十分ぐらいの間、試しに独り放っておいて、部屋を留守にしてみると、まだ剛情にちぢこまってはいるけれども、いい塩梅に逃げ出しそうな風も見えない。