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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

「おい、どうしたんや?―――」

だが、やっとのことで一と休みした彼は、何気なく女房の方へ杯をさし出すと、途端に心配そうな上眼使いをした。どうした訳か今しがたまで機嫌の好かった女房が、酌をしようともしないで、両手を懐に入れてしまって、真正面からぐっと此方を視詰めている。

「そのお酒、もうないのんか?」

出した杯を引っ込めて、オッカナビックリ眼の中を覗き込んだが、相手はたじろぐ様子もなく、

「ちょっと話があるねん。」

と、そう云ったきり、口惜しそうに黙りこくった。

「なんや? え、どんな話?―――」

「あんた、その猫品子さんに譲ったげなさい。」

「何でやねん?」

藪から棒に、そんな乱暴な話があるものかと、つづけざまに眼をパチクリさせたが、女房の方も負けず劣らず険悪な表情をしているので、いよいよ分らなくなってしまった。

「何で又急に、………」

「何ででも譲ったげなさい、明日塚本さん呼んで、早よ渡してしまいなさい。」

「いったい、それ、どう云うこッちゃねん?」

「あんた、否やのん?」

「ま、まあ待ち! 訳も云わんとそう云うたかて無理やないか。何ぞお前、気に触ったことあるのんか。」

リリーに対する焼餅?―――と、一応思いついてみたが、それも腑に落ちないと云うのは、もともと自分も猫が好きだった筈なのである。