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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

れたり、―――全く、リリーのためでなかったら、誰に頼まれてこんな嫌な仕事をしよう、だが又リリーのためならばこう云う苦労を厭わないとは、何としたことであろうと思うと、返す返すも、蘆屋の時分に、なぜこの半分もの愛情を以て、この獣をいつくしんでやらなかったか、自分にそう云う心がけがあったら、よもや夫との仲が不縁になりはしなかったであろうし、このような憂き目は見なかったであろうものをと、今更それが悔まれてならない。考えてみれば、誰が悪かったのでもない、みんな自分が至らなかったのだ。この罪のない、やさしい一匹の獣をさえ愛することが出来ないような女だからこそ、夫に嫌われたのではないか。自分にそう云う欠点があったからこそ、ハタの人間が附け込んだのではないか。………

十一月になると、朝夕の寒さがめっきり加わって、夜はときどき六甲の方から吹きおろす風が、戸の隙間から冷え冷えと沁み込むようになって来たので、品子とリリーとは前よりも一層喰っ着いて、ひしと抱き合って、ふるえながら寝た。そしてとうとう怺えきれずに、湯たんぽを使い始めたのであったが、その時のリリーの喜び方と云ったらなかった。