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ねこすてざか

猫捨坂

豊島 与志雄

「新文学」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

トタンの隙間から覗けば、洞窟内は、上方の出入口から明るみがさしている。金魚屋に見られるような四角な池があり、その中に、死体が堆積しているのだ。黒焦げに干乾びてる胴体、皮膚が焼け爛れてる頭蓋骨、ばらばらになってる肋骨、折れ曲ってる四肢、所々に、腕や脛がにゅっと突き立っている。アルコールのタンクに火がはいって、浮いていた多くの死体が、じりじり焼かれながらのたうった有様が、そこに再現してるのだ。異様な臭気が漂っている。別の室にも一つのタンクがあり、分厚な蓋がかぶさっている。恐らくそこには、アルコールの中に、幾つだかの死体がぶかぶか浮いてることであろう。

その陰惨な光景を、誰かが覗き見て、噂が立った。わざわざ見に行く者もあった。然し、空襲に常時さらされてることとて、誰も我が身の明日のことさえ保証出来ず、病院の死体貯蔵場の焼け跡など、大した印象は与えなかった。

終戦になってから、その死体貯蔵場には、外から覗けないように古板の囲いがされた。が逆に、附近の人々の頭には、その内部のことが蘇ってきた。もう覗き見も出来ないので、嘗ての噂が一層誇張して想像された。元来が人通りも少なかった猫捨坂は、夜分など、ますます通行人が少なくなった。