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ねこぐるま

猫車

宮本 百合子

「改造」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,310 字 · 35 页

青空文庫

「あすは、買い切りじゃがで……」

「一日二日はくり合わせますけ」

「さア――無理じゃと思うなあ……」

押し問答の後、男はそこに置いていた自転車のライトをとりあげて出て行った。正一が、

「なんぼこまいかて、家一軒で四杯ちゅうことがあるけ」

と電燈の下へ戻って来た。

「なんで?」

「柳下の郵便局のおっさんが死によって、保坂へその家を引くんじゃそうな……二十四円で請合えと云いよるんじゃ」

「そりゃいけん」

おさやが、坐り直すようにして首をふった。

「無理であります。柳下の家は見ちょりますが、こまうはありません」

黙っていた直二が、その時突然大きい声でそう云った。

「おお、そうそう」

思い出しておさやが、

「さっき組合から、米を出すちゅうて来よった。一俵三銭じゃ行くますまいと云うといたが――」

と云った。

「ガソリンがこう上っちゃ、運賃も上げにゃならんが、鉄道運賃が居据りじゃけに、きついなあ」

おさやは、辛辣なところのある口調で、

「上田じゃ儲りよって儲りよって困るじゃろ」

と笑った。上田は「日石」のこの地方唯一の特約店で、海軍工廠へも上田の店からでなければ重油が入らないのであった。