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ねこぐるま

猫車

宮本 百合子

「改造」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,310 字 · 35 页

青空文庫

その店から行方を晦ましてしまった。何か犯罪があるということで、坂口が渡された株券は証拠物件として半年も警察にとりあげられていたのであった。

正一が、

「うっかりすると、坂口はん首つらんならんようになる」

と云った。

「夕方、下屯田をひょっこひょっこ歩きよった」

「茂一の店へゆきよってのじゃろ」

真偽の知れない株券はそれなり又箪笥へしまいこまれた。

「箱をかえにゃいけんなあ」

ひとりごとのように云いながら、おさやが隅のつぶれた「朝日」のボール箱を引出しからとり出してふたをあけ、ちょっとなかを調べて埃を吹いた。

「なんで」

「お父はんの勲章や」

お縫が、

「あら、うち、見たこと一ぺんもないわ」

と云った。

「軍隊手帳も入っちょりますか」

「入っちょる」

「どれ」

金鵄勲章という名だけはきいていて、お縫は現在目の前のボール箱の中に入れられている品とは何かしら見かけも全く別なものを想像していた。こういうものにも沢山の種類があるのであろう。その箱の中に、庄平が達者だった時分の写真が偶然一枚混りこんでいた。黒紋付を着て、その勲章のほかに二つ並べて胸に下げている。写真にうつっている方が、却って本物らしく見られるのであった。