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さるがしま
猿ヶ島
「文學界」1935(昭和10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,768 字 · 12 页
それから私たちは顔を見合せて笑った。私は、なにやらくつろいだ気分になっていたのだ。
けたたましい叫び声がすぐ身ぢかで起った。おどろいて振りむくと、ひとむれの尾の太い毛むくじゃらな猿が、丘のてっぺんに陣どって私たちへ吠えかけているのである。私は立ちあがった。
「よせ、よせ。こっちへ手むかっているのじゃないよ。ほえざるという奴さ。毎朝あんなにして太陽に向って吠えたてるのだ。」
私は呆然と立ちつくした。どの山の峯にも、猿がいっぱいにむらがり、背をまるくして朝日を浴びているのである。
「これは、みんな猿か。」
私は夢みるようであった。
「そうだよ。しかし、おれたちとちがう猿だ。ふるさとがちがうのさ。」
私は彼等を一匹一匹たんねんに眺め渡した。ふさふさした白い毛を朝風に吹かせながら児猿に乳を飲ませている者。赤い大きな鼻を空にむけてなにかしら歌っている者。縞の美事な尾を振りながら日光のなかでつるんでいる者。しかめつらをして、せわしげにあちこちと散歩している者。
私は彼に囁いた。
「ここは、どこだろう。」
彼は慈悲ふかげな眼ざしで答えた。
「おれも知らないのだよ。しかし、日本ではないようだ。