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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
御飯後には、小包すこし拵えるのですが、どの位やれるでしょうね、そういえば今夜の御飯のおかずは何にしましょうね。ああ、おなかが鳴って来た、では御飯、おそい昼めしとなりました。
御飯すまして一寸台所始末したら、もうあとは一時間ほどしか自分の時間がなくなりました。
ひどい音がして飛行機がとびます。出てみたら美しい形で雁行して居ります。低いところに雲があるので、見えつかくれつしながら。形の静かな優美さも、こんなに空気をかきさいて動いてゆくのね。昔の歌人は、人間の営みのいとまなさを、やすむ間もなき鴨の水かきとよみました。悠々浮いているようでも、と。
今台所用本は、ナポレオンの母の伝記です。レテッツィアというひと。いつか書きましたろう? 一種の女丈夫だって。いつお前たちの必要がおこるかもしれませんよ。他人のパンを乞うよりは、私のお金の方が使いよかろう、と皇帝の見栄坊に一矢酬いたという。この伝記者は、もう少し突こんでかくべきマレンゴのことやブリューメルについて大変、おっかさんの側からだけ、彼女の知っている範囲でかいていてその点つまりませんが、コルシカという島の十八世紀末におけるむずかしい立場、島内のありさま等よく分ります。