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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

わたしは、さしづめ、冬のどてらとふとん何とかしなくてはならないと気が気でなくて。引越車の多いこと。

美校、音楽学校、みんな先生の首のすげかえをいたしました。ゲートルの巻ける人、モンペはける人に。結城素明というような七十歳も越したような先生や小倉末先生(ピアノ)のような大先輩は引こみました。国宝はこの際すべて引こめて、しまっておくというわけでしょう。博物館でやったように。

アラ、八百やだって。一寸待って頂戴。帯をしめ直さなくては、ね。布をかぶり、筒袖を着、縞木綿の前かけしめ、カゴ下げて出かけます。

犬が母娘でついて来て、どうでしょう、気のつよい雌犬が八百屋に出現して、ムキになってチンの首ったまにかぶりつきました。小さいくせに。女の人ばかりだからアレアレなのよ。エイ、と思って、その犬の頸輪つかんでギューギュー引っぱったら喉がキュークツになってはなしました。チンたらキャベジ籠の間にはさまってぶるぶるふるえているの。可笑しいのは、雄犬だと、大きくってもいじめたりしないし、チンも「わたし女よ」という風でつんとしていて、何と滑稽でしょう。腰がぬけかけみたいになって、一寸だいてやりました。