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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
フランス人は政治家ずれしているところがありますね、精神史的に。又、政治くずれの面もあるようです。偉大な出来ごとの、真の偉大さを把握しないで、フランス人の皮肉・辛辣さでかたづけてしまうところもあります。フランス人のこの特色を、バルザックは立腹して居ります、立腹するバルザックを好しいと感じます。しかも彼は、その人間らしい立腹に足をとられて、自分を、折角怒ったのに、その甲斐のないようなところへもって行ってしまいましたが。
この手紙はここで終りにいたしましょう、もう九日の午後よ。六、七、八と経ちました。たった一行の間に。今も亦一人です。アイロンがピシリピシリと微かに音をたてながら熱しています。わたしは、暑い日ざしを見ながら、あなたの血便はどうなっただろうと考えて居ります。アドソルビンという腸内の殺菌吸着剤が三共にあるかしらとも考えて居ります。こうやっていてさえも、だるいのに、と思って居ります。
七月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
七月十五日
暑い日でした。きのうも、ね。おなかの工合わるく、食事がちゃんとしないときにこの暑気では、さぞさぞお疲れのことでしょうと思います。