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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
御免なさいね。
今夜九時から売り出すのにどうにかして買うようにし、もし駄目だったら、夜明ししてもあした七時のにのれるようにします。咲も気をもんで、あっちこっちしてくれているけれ共。
あした午後お目にかかれたら、其にはこんなゴタゴタ騒動が裏うちされているのよ。然し、大体昨今の旅行というものの工合が分っていい修業です、旅行はただの旅行でないのね、「パンの町」という小説のようなのね。そこへ目ざして一つでも多くの口、一本でも多くの手が殺到しようというわけなのですね。こちらの百姓さんが云っているわ。一人で来たものが、ハア今じゃ三人五人と来るんだからハアきけます。きけるというのは参るという意味よ。七八年昔の縁故までたどって来っからない、と。本当に切符はどうかしら。こんな手紙、何年にもかいたことございませんね。
八月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
八月十七日
きのうの夜、七月二十四日のお手紙到着しました。長い旅行を迷わずに来て、なかなかいじらしく思いました。安心いたしました。どんなに手間どっても来たのならよかったわ、ね。
雹のあとおかきになったのね、ガラスも面くらっただろうとあり、あれがいきなりガラスに当る音思いおこしました。