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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

11 一九四四年(昭和十九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页

青空文庫

という一連の詩趣は、わたしの好きなセロの深い響をもって伝わります。くりかえしくりかえしその一連を読んで、峠をうたった古典を思い出しました。あの有名なヘッセ(?)の「山の彼方には幸住むと人のいう」というのがあるでしょう、ゲーテの「山の頂に休息あり」というのがあるでしょう。どっちもその人たちの人生のあり場所を示して居りますが、「どこらの峠かときかれるなら」の溌溂とした動きと多彩と変転に耐える強靭な展望はありません。情感の美しい流露が、言葉のリズムを支配しているばかりでなく、これも亦文学の本質的な新種です。わたしはこういうものは、読むというよりのみこむのよ、たべてしまうのよ。たべてもたべても、そこに消えず香高くあるというすばらしい果物のようね。

こんな風の爽やかな初秋の日、こういうおくりものをもって、よしやそれののっている緑と白の縞のテーブル掛はかなりよごれているにしろ、やっぱり幸福者たることにかわりはありません。

ジクザク電光形というのが、そのままね。何と激甚な閃光でしょう、破壊と創造との何という物凄い錯綜でしょう、創世記というものを、人類は其々の民族によって、雄渾な伝承にして来ましたけれども、現世紀における畏怖すべき雷鳴と、爆発と、噴出する新元素新生命の偉観とは、予想もされていなかったと思います。