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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
その気持の湧くところおわかり下さるでしょう? 作家としての確信や自信というものが、「私」の枠からぬけ出るということ、漱石は則天去私と云ったが、そのもっと客観的なそして合理的な飛躍は何と爽快でしょう。「私」小説からの発展の可能が、最近の一つの契機として、事実の叙述はいかにするべきものかという実例で示されたとすれば、あなたにとっても其はわるいこころもちのなさらないことではないでしょうか。
刻々の現実の呈出しているテーマは何と大きく複雑で多彩でしょう。そのテーマの根本的意義を感覚のうちにうけとるところまで成長したとき、「私」はその個的成長に必要だった枠としての任務を遂げて腐朽いたします。現代文学史の中では、「私」がこういう自然の脱皮を待たず、或は、自然に脱皮するとき迄保たないほど弱くて、風雲にひっぺがされて、赤むけの脆弱な心情が、こわさの余りえらく強げになってみたり、感情に堪えず神経を太くしたりいたしました。
これらのことは、わたしたちの話題としても一つも新奇でありません。けれども、今又このことが新しく会得されるというのは無意味ではないと思います、立派さというものの中には古びることのない感動があります。