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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
大樹とならざるを得なく生れついたその樫の樹は、この震撼的愛撫の必然をよくのみこんでいるらしく、おどろくばかりの自然さでその負担に耐えて居ります。そして年を重ねるにつれて重厚さと余裕と洞察の鋭さから生じる愛嬌さえも加えて来ているというのは、何たる壮観でしょう。樫の樹も人も知って居ります。雷によって枝を裂かれていない大樹は、一本もあり得ないということを。枝を裂かれつつ繁栄するそこにこそ大樹の大樹たる栄えがあるのだということを。そしてね、ここに一寸、おもしろの眺めや、というところは、例の樫の根元のすいかつらです。
樫が若木であったとき、奇しき風に運ばれてその根元の柔かい土の間に生えたこの草は、不思議な居心地よさに夜の間にものびて、いつか花もつけ蔓ものばし、樫の幹へ絡みはじめました。やがて蔓はのびひろがって枝にも及び、花の咲く季節には、緑こまやかな葉がくれに香りで、そこと知られぬ深みにも花咲くようになりました。
すいかつらというような草は、元来勁い草とは申せません。もしもひよわい枝にまつわれば、その枝の折れるにつれて泥にまみれもしたかもしれません。この樫の根に運ばれた不思議によってこの蔓草は、今やその草とも思われなく房々と大きやかに成長して、蔓の力もあなどりがたくなりました。