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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
にしろ更にヘミングウェイにしろ、個性に加うる社会性――芥川と彼の時代への感応――という風ではなくて、もっと大づかみなアメリカ気質と呼ばれるべきものに時代性がくっきり刻まれているように思われます。彼等の進歩のしかた、新しくなりかたはそういう風で、一本の樹の梢があれ丈ゆれるから、さてはあの山は風が当るな、と思って見られるのではなくて、山じゅうが揺れるみたいで、その中で、特に目立つ樹が目につく、という風ね。封建的なものを知らない、そのじめじめ神経の張った黒い力は知らないが、真夜中にギラギラ白昼燈をつけてオートバイの競走をやって血を流す、明るすぎての暗黒力があり、其に対して芸術家は反応するのね、世界文学という見地からアメリカ文学のこの特徴は極めて興味があります。民主的な国柄の文学は所謂個性的なものに神経質に把われないところから、その一歩先から発足することは共通であり、直接社会にふれた文学にならざるを得ない本質も同じようですが、さて近づいて見ると、そこには興味つきぬ差別があってね。「怒りの葡萄」のスタインベックでしたか、生理学と物理学の勉強しているというの。