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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
そのとき、人は、もう決してもとの人ではないわ。
鉄に一定の電流を通すと、組織に変化が生じます。日本の宝本多光太郎博士はそのことをよく知っていらっしゃるのでしょうね。それらの電流が、鉄を、どんなに人類の役に立つものにするかそのことをよく御承知なのでしょうね。
きょうあたりの寒いこと。こうして書いていて手がかじかみます。アンポン式足袋はいかがでしょうか、あれでも純毛よ。出来上りがいかにもおそるべき手工品ですけれども、作りかたには叶っているのよ。悪料理人の手さき仕事ではないのよ。おとなりの細君に教えて貰って、そこの縁側で縫いました。離れの家、あなたもお当りになったコタツのある方の。底がぬけたら又一足こしらえましょう、二足ぐらいは入用でしょう、きっと。自分にもこしらえます、さむいわ、こうしてかけていても。
ことしのお歳暮には、こころをこめて、かざらしを一つさし上げます。よくよくお似合いになるのを、ね。万葉の詩人は、あぶらの火に見ゆるわがかざらし、と、素朴な全生活の明暗を髣髴させてうたいました。でも、現代では、かざらしの花のえましさの見えるのも、複雑多彩な光照によってであるし、ひと花ひと花とつみ集めて編まれるかざらしも、野ゆき山ゆきというより遙に深い含蓄をこめたものです。