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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
そして、手が痛い痛いし。水仕事で荒れ切ってしまって。
あなたのおなか呉々もお大事に。国はどういう加減か、ずっと腹工合がまともでない由です。食物のせいでしょうか。熱がお出にならないのは何よりだと思います。すこし暇になり、おっしゃるように読みたいものもお読みになり、お休めにならなくてはいけません。あいにく夜目をさますことが殖えてしまっていけないけれども。きのうあたりは、少し休めたようなお顔に見えましたが、いかがでしたろう。ブランカは、あれからおひるをすまして四時ごろまで眠ってしまいました。
『風に散る』第三巻はまだでしょうか。最後の一行を読終りになったとき、わきにいたら、きっと、ホラ、ね? というでしょう、あれは不思議な小説ですね。ミッチェルさんが、もうあのあと作品は書きません、と云ったのは正直に心持を現した言葉だと思います。あれだけ大規模で、あれだけディテールに充ちた小説の最後の一行が、あんなに力なく云いわけめいているというのは一つの特色です。作者の人生一杯のところへ、あの作品が行きついてしまっていて、抜けちまった感じ。もう、これっきりという感じ。文句の上では明日という日を期待していますが、気魄において、内部世界の現実において、もうこれっきり、というところがむき出されています。