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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
へつらいを、すべてのひとは軽蔑し、しかも殆どすべての人々がそれに敗けます。アランが「デカルト」をかいて冒頭にこうあってよ、「それはまだ屈従というものを知らない時代だった」と。へつらいのおそろしさはへつらいの心理が根本的に非節操的なものであるから対象が変るごとに何にでもへつらうということです。へつらいの愛国心が国を破るのはこの為ばかりです。柿内さんと同じような意味で、「隠れた飢餓」ヴィタミンの欠乏状態が前大戦のドイツをどんなにひどいことにしたか書いている医者がありました。「隠れた飢餓」と云うのね専門で。ヴィタミンの欠乏を。そう云えば、メタボリンはいかがでしょうか、もうない筈と思いますが。ともかく届けておきましょうね。
二十三日のお手紙には珍しく詩話があって、大変愉しく頂きました。あの詩にはね、続篇のように、泉の歓びというのがあるのよ、あれは牧人の側からのですけれども、それはその森かげの温い泉の方からうたわれています。軟かな曲線で森にいたる丘のかげに泉はいつから湧いていたのでしょう。白いひる間の雲、色どりの美しい夏の夕方の鱗雲のかげが、泉の上に落ちました。