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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
トルストイは矛盾だらけにしろ、そういう仕事はきらった男でした。その一つの点だけでも彼の人間はしゃんとしていたと云えるでしょう。
きょうは、もう十日(月)です。きのうは国が家にいて、台所の天井の窓のガラスがこわれていたのを直したり、カマドの灰かきをしたりしてくれました。ガラスがこわれたところから雨がバシャバシャおちて、タライをおいても洪水でした、下駄ばきで台所やって居たから直って全くさっぱりしました。
三十一日にひとりになってから、十日経ちました。段々手順が分って来て、大体朝七時半ごろから十二時すぎ迄で一かたつけて午後は四時間ほど、自分の時間にしようとしてやって居ります。家のことを四年しなかったうちに全然様子が変ってしまいましたから、今又台所やるのは私に或はいいことでしょう。配給の様子も一つ一つはっきり分るし、不如意な中でやりかたも覚え、これから更に不便な生活をしなければならないためのケイコに有益です。台所も何となし自分の息がかかるとよくなって、今棚の上のコップには可愛い「ぼけ」の枝がさしてあります、台所をさっぱりと整った優しいところにするのは大切ね、女のひとの一生は一日少くとも十時間は台所で暮さなくてはならないのですもの、お目にかけられないところとする日本の習慣は間違っていると思います。