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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

もし急に北へ行かないならば、又一ヵ月ばかりも江場土へ行って見ようかと思います、そして、江場土という小説がかきたいのよ。北へ行くための荷もつのことや何かを一応きまりつけ、ここの人たちにもちゃんと話をつけて。わたしが北へ行っても菅谷夫婦はいるつもりらしいから結構だとよろこんで居ります。二人きりで困るならあの人たちのいい人を置けばいいわ。小樽のおばあさんにたのんで、秋田の大館というところから花岡へ行く途中釈迦内村というところに甥子の出征留守の家を紹介して貰いました。細君に子供二人。地図を見たらもうすこしで北の端れなの。余り田舎では女が勉強するのさえ驚異ですから、これはいざのとき困らないための候補地という程度に考えて居ります。では又。ペコをお大事に。風邪大丈夫でしょうか。

五月二十一日 [自注14]〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(野口謙次郎筆「十和田湖之春」の絵はがき)〕

五月二十一日

妹は煤をつけたる顔のまゝわれ送るとて汽車にのり来る

おみやげの玉菜三つをもち重り十日目にまた焼跡に帰る

帰り来て雨戸あくれば焼跡をふかく覆ひて若葉しげれる

この年の五月若葉はこと更に眼にも胸にも濃く映るなり