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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
咲の兄、姉、従弟。本当に、どこに泊るのかしら。やけのこりの近所のどこかよ。今の東京を見たら国もすこしは活が入るでしょう。そして、自分の将来ということについてもいくらか真面目に考えるでしょう。
昼飯のとき太郎が(もう五年よ。すっかりこっちの言葉になり、東京の子に見られないふっくりした少年となりました、)お父さまア(と、こっちのアクセントで)こっちさ来て商売は何なの? 商売はないよ、お前の学校の先生になろうか。先生になんだら田植しなくちゃあ。お父様だったら作業みんな良上にすんだべ、からいから。わたしがきいていておやじの点のからいというのが分らないのよ。何故さ、そんなに耕作が上手なの? そうじゃねえけんどさ、子供だから其以上説明出来ないのね。含蓄多き会話です。
四つの健之助はまだ幼児で丸い頬をしてすこし泣きむしでおやじに大いに差別待遇をうけゲンコも貰います。妙ね、くちやかましいし閑居して不善をなすの口で、ひる太郎が神経バカ誰? と云っているのよ。こっちでは気狂いのことを神経って申します。そんなものいないよと私が云ったら、太郎が居んだと笑うの。誰なの? するとなお笑って健坊がそうきくと、健ちゃんと返事するのですって。