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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

渦は非常に滑らかで、底ふかく、巻きはかたくて中心は燦く一つの点のように見えます。樫の樹は、波紋にまかれるのが面白そうです。時々渡る風で、梢をさやがせ波紋の面も小波立ちますが、樫はやっぱり風にまぎれて波の照りからはなれてしまおうとはせず、却って、一ふきすると、枝を動かし新しい投影を愉しむようです。樫は巧妙です。それとも知れず、しかも波紋のあれやこれやの波だちに微妙にこたえて、夏の金色の光線にしずかにとけて居ります。そこには生命の充実した静謐があります。

八月十四日 〔網走刑務所の顕治宛 福島県郡山市開成山より(封書 書留)〕

八月十三日

きょうは盆の入りだというので、小さい子供がすこしきれいな浴衣をきたり、花を剪ったりしてざわめいて居ります。今朝五時半にサイレンが鳴りましたが事なく目下は警戒中。小型は早朝から日没までかせぎます。

さて、こんな漫画覚えていらっしゃいますか。サラリーマンが珍しい夏休みをもらったが、どこへか行きたい、行くには金がかかる。夫婦で地図を眺めて休み中暮している図。これは苦笑が伴うにしろ笑い草ですけれども、わたしがこうして日に一度は地図を眺め、研究して日を暮しているのは、やや惨憺ものです。