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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
昭和十六年十二月からあしかけ五年でした。前大戦の時(十一月)丁度ニューヨークにいて、休戦の実に底ぬけな祝いを目撃しました。十五日正午から二時間ほど日本全土寂として声莫しという感じでした。あの静けさはきわめて感銘ふこうございます。生涯忘れることはないでしょう。この辺は町の住民の構成が単純ですから、そして大きくないから到って平らかです。ただ新しい未知の条件がどういう形をとって実現してくるかということについて主婦たちも心をはりつめているようです。
昨夜、もう空襲がないということが信じられないようでした。きょう、八ヵ月ぶりで、わたしのあのおなじみのお古の防空着を洗いました。一月二十八日に肴町附近がやけたのをはじめに十四日の夜も着て居りました。汗や埃まびれだのに洗うひまがなかったのよ。
けふこの日汗にしみたる防空着を洗ふ井戸辺に露草あをし
あっちこっちに行っている人々のことを思いやります。原子爆弾というのは一発一万トンの効果ですって。達ちゃんどうだったでしょう。隆ちゃんはどうしているでしょう、富ちゃんは。林町の家がのこったのは不思議きわまる感じです。(多分のこっているでしょう)あんなに焼けているのにあすこがのこり従ってわたしの机も在る、椅子もある、本もある、何と信じにくいことでしょう。