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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
自然の景物の観賞というのも様々の時代の特色があることね。この頃のわたし達は壕に入るとこの風流で。それにしても三十一日の暁の景色は優美でした。
そちらはいかがな元日でしたろうか。大局的嘉日でしたというわけでもありましょうか。それが窮極のおめでたさね。
今年はわたしも今月中に家に来る人のしまつをつけて仕事にとりかかります。セバストーポリの塹壕の中でトルストイは幼年時代を書いたし、カロッサにしろアランにしろ塹壕生活の時期を泥にまびれただけではすごして居りません。わたしも、わたしたちの壕生活期に収穫あらしめようと思ってね。それにはどうしても今までの生活ではやれません。チジョサン[自注1]によび立てられてかけ出していたのでは、ね。サイレン丈で結構です。一日に一貫した心もちで過せる時間がなくては何をかくどころではないわ。あんなに手紙さえおちおち書く間がなかったりして、ねえ。四月から去年一杯相当骨を折ってわたしの手は勲章ものにひどくなったのだから、今年はもう本職に戻ってもよろしいでしょう。
留守に来て貰う人のことはなかなかむずかしゅうございます。この前の手紙で申しあげた伝八さんなる夫婦は、二人の生活費をこちらもちという条件なら承知するのです。