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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
12 一九四五年(昭和二十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页
泉子は言葉すくなく、しかし眼にも頬にも燿きをてりかえして居ります。わたしはちょいとひやかします「あなた案外落付いた風ね。無理しない方がよくてよ」すると泉子曰く「ええ。ありがとう。」そして笑うと、真面目になって申します「私は却って心配な位よ。だって私には私の分としてしなけりゃならないことがまだどっさりあるのよ。アンポンになる迄に。だからね今からボーッとしては大変なの。大いに奮励しておかないと安心してアンポンになれないでしょう、間に合うかしらと寧ろ心配よ」好ちゃんは幸海外にいたのではないからまさか三年はかかりますまい。緑郎なんかどういうことになるでしょう。只交戦国人として抑留されたのではないから。ベルリンなんかにいた日本人の中で動きかたが目立ったということは、単純ではありませんから。
今ここには岩本の文子さんというのが(先生)来て居ります。子供の世話を見たり台所手伝ったりして、前坐の方の部屋に居ります。二階はあいているのよ、お母さんが昼寝におあがりになる位。二階は大変むし暑いのね。開成山では秋でしたからこんなに汗が出ると逆戻りでおどろきます。しかし、幸蚤が居りません。