轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

そして、又ぐるりと電車で帰って参りましたが、初めて瞥見したところが多く、蒙っている損傷の観念もいくらか具体的になりました、そして、この傷だらけの東京に愛着を覚えます。赤坂あたりに桜が咲きはじめていてね、疎開の砂塵の間に、薄紅の花を見せて居ります。さくらは、ぐるりの景物と似合わなくて、哀れです。花を見てふと忘れていた春を感じるというだけの影響もことしの桜はもっていないようです。まあ、桜が咲いている! 言外に、さくらの間抜けさを語っているようでさえあります。ふとん包みを背負った女が電車にのって右往左往して居ります。

島田行の切符は、二十日すぎからたのんで幾度も骨を折ってもらいましたが、駄目でした。今の切符は実に大したもので、誰も「買う」とは申しません。「手に入る」「手に入らない」と申します。「手に入れる」ことは容易でなく軍関係、強制疎開、罹災者で一杯のようです。わたしとしてはもう一つ最後の方法がありますから其を試みましょう。其が駄目だったら本当にもう駄目よ、わたしが罹災するか疎開するかしない限り。疎開は先へゆく丈で帰りは買えません。

持ってゆく荷物をこしらえて、土蔵にしまってあります。